尾形光琳300年忌記念特別展.「燕子花と紅白梅−光琳デザインの秘密−」 2015年5月12日 根津美術館

  • 2015.05.19 Tuesday
  • 17:53
根津美術館5月前後の恒例行事、国宝・燕子花図屏風の公開が始まると、季節が初夏に進んでいくのだなと毎年感じます。
今年は、尾形光琳300年忌、光琳イヤーなので、MOA美術館所蔵の紅白梅図屏風との、光琳の二大国宝の屏風の豪華な競演です。




尾形光琳と言えば、弟・乾山とともに琳派を発展させた立役者です。日本ばかりか世界の現代アーティストやデザイナーにも、光琳の美は影響を与えています。



《燕子花図屏風(右隻)》 尾形光琳筆 日本・江戸時代 18世紀 根津美術館蔵


《燕子花図屏風(左隻)》 尾形光琳筆 日本・江戸時代 18世紀 根津美術館蔵



根津美術館の庭園にも燕子花が美しく咲きますが、屏風と実際の花を見比べると、光琳の燕子花がいかにデフォルメされ、意匠化されているのかよくわかります。
燕子花の花と茎や葉のバランスは、屏風に描かれたそれとは大きく異なります。

そして、日本画の特徴のひとつでもある、「余白の美」「余白の効果」が効果的で、金箔の施された背景にまるで燕子花が浮かび上がるかのように描かれていますが、展示室後方のソファの方まで下がって全体をよく見ると、型紙を使ったかのように全く同じ個所がいくつかあることがわかります。
例えば右隻では、下の図の赤い部分が全く同じです。
他にも、おそらく反転させているのであろう部分や、浮世絵の重版の時に元の版木の一部を生かして少し変えたりしているのに似ているような個所もあります。
燕子花の花の紫と、葉の緑のみに色味を抑えているところも、絵画というよりデザインがに近いような感覚を覚えます。

こういった燕子花屏風の特徴は、商業デザインのようだなあと思うのです。
光琳をリスペクトしているデザイナーがたくさんいるのは、こういう部分が理由なのでしょうか。




紅白梅図屏風では、中央の流水が空間に躍動感を与え、左右の白梅と紅梅は、年輪を重ねた老獪な重厚感と若々しさを感じさせるたおやかさとに描き分けられています。
幹はたらしこみ技法によってしっかりと描かれていますが、花はそのままアクセサリーのデザインに採用できそうなほど、可愛らしく簡略化されています。

光琳の作品は、燕子花図屏風も紅白梅図屏風はもちろん、また他の作品も同じ作品を何度も繰り返し観てきましたが、絵画とデザインが融合したような味わいが、光琳の魅力ではないかと私は思うのです。


《紅白梅図屏風》 尾形光琳筆 日本・江戸時代 18世紀 MOA美術館蔵



今年の展示では、そんな光琳の2大屏風がどんな系譜をたどって生まれたのか、振り替えられる構成でした。


「伊年」印は俵屋宗達の号ですが、俵屋派のいわばブランドマークで、宗達でなくとも同じ工房で制作された作品にはよく確認される印です。
余白の使い方に、燕子花図屏風ほどの大胆さはないですが、その萌芽が感じられますね。とはいえ、余白の効果的な使い方の作例は、宗達以前にも雪舟などにも見られますし、琳派以降も狩野派や長谷川等伯にも見られるので、どちらかというと、江戸前期頃に次第に定着していきつつあった、日本の美の価値観なのかなという気もします。


《四季草花図屏風(右隻)》 「伊年」印 日本・江戸時代 17世紀 根津美術館蔵


俵屋宗達によるものと伝えられる蔦の細道図屏風は、『伊勢物語』第八段「東下り」の「富士の山道」のくだり、業平が都に残してきた恋人宛の和歌を託す場面を屏風にしたものです。
蔦が意匠化されているところ、和歌を書き込むためかもしれませんが空間が生かされているところ、色数を抑えているところは、燕子花図屏風に通じる部分がありますね。


《蔦の細道図屏風(右隻)》伝俵屋宗達筆・烏丸光広賛 日本・江戸時代 17世紀 相国寺蔵


《蔦の細道図屏風(左隻)》伝俵屋宗達筆・烏丸光広賛 日本・江戸時代 17世紀 相国寺蔵



孔雀立葵図屏風の右隻、孔雀の後ろに描かれている梅は、ぼかしの技法で描かれています。紅白梅図屏風は最晩年の作品と伝えられているので、孔雀立葵図屏風の頃はまだ、意匠化にはまだ至っていなかったのでしょう。


《孔雀立葵図屏風(右隻)》 尾形光琳筆 日本・江戸時代 18世紀 個人蔵

左隻には、立葵が描かれますが、空間の間の取り方は、六曲と二曲の違いはもちろん、上方の空間の大きさの違いはあれど、燕子花図屏風に通じるものがあります。
赤と白の色の対比が印象的で効果的ですが、これは光琳がよくやる手法です。
燕子花図屏風は光琳初期の作品なので、きっと、色の対比を使いつつ、空間の切り取り方を変えて立ち葵を配置したのが、この孔雀立葵図屏風左隻なのだろうなと思います。


《孔雀立葵図屏風(左隻)》 尾形光琳筆 日本・江戸時代 18世紀 個人蔵


光琳の、この自己作品の引用は、屏風だけではなく、扇などの日用品や、蒔絵や陶器にも見られます。
光琳画による乾山作、銹絵梅図角桜は、左上から白梅の枝が伸びているところが、紅白梅図屏風と同じ構図です。


《銹絵梅図角桜》尾形乾山作・尾形光琳画 日本・江戸時代 18世紀 根津美術館蔵



宗達から光琳へのDNAの系譜、光琳自身の自己引用と改変を感じさせる作品展示の最後に、会場内のキャプションその他の説明にははっきりとは書かれてないのですが、後世への影響を想像させる作品がありました。

《白楽天図屏風》は、謡曲「白楽天」を画題にしたもので、日本にやってきた唐の詩人、白楽天が、漁師(実は和歌の神様、住吉明神の化身)と船の上で問答をし、和歌の偉大さを思い知らされて中国に帰っていく場面が描かれています。

この構図や波をダイナミックに描いた表現が、北斎の有名な《神奈川沖浪裏》に似ているのです。
北斎は、30代半ばまでは、勝川派の絵師として勝川春朗の名で役者絵を描いていましたが、破門の形で勝川派を離れます。春朗時代も琳派などの絵を学んでいましたが、破門後は二代目俵屋宗理を襲名し、風景画や静物画、美人画などを描いていました。
琳派を学んでいたのですから、ひょっとして、この《白楽天図屏風》または模写やスケッチなどを見聞きしていたのかもしれません。《神奈川沖浪裏》のように、定規やコンパスを駆使した構図ではありませんが、画面の構成やダイナミックさに共通するものを感じました。



《白楽天図屏風》 尾形光琳筆 日本・江戸時代 18世紀 根津美術館蔵


(参考)《神奈川沖浪裏》葛飾北斎 日本・江戸時代 1831年(天保2年)頃


やがて、ゴッホやドビュッシーは《神奈川沖浪裏》にインスパイアされて作品を生み出し、また日本の芸術家たちはその作品に感銘を受けたり、自国の芸術を再評価したりしています。
西洋はじめ他国の評価を通じて自国の文化を評価を再評価する構造は、例えば現代アートでも、今まさに具体の再評価などがありますが、謡曲「白楽天」のストーリーに、既に、日本人の自文化に対する劣等感のようなものを抱きがちな気質が既に表れているのかな、などと、屏風の前で色々な考えを巡らせていました。


さて、屏風や絵画からだけではなく、謡本や巻物からも、光琳が燕子花図屏風を描くにいたった着想の系譜が紐解けます。

まずは、小西家文書。
小西家文書とは、光琳の子孫である小西家に伝わる資料で、光琳の生家であった雁金屋の衣裳図案帳などが含まれます。若いころの光琳が見慣れていた着物の図案なども記されているのでしょう。
燕子花と思われる図案もあります。着物であれば、それも特に訪問着であれば、仕立てたときの全体のバランスを考えながら反物を染めていきます。図案を反物全体にどう配置するか、型紙のように自由に図案を散らしていく作業は、幼少のころから光琳が見慣れた制作風景だったのではないでしょうか。


《雁金屋衣裳図案帳(小西家文書)》 大阪市立美術館蔵


図案を型紙のように美術作品に活用する着想のヒントは、光悦なのだと思います。

光悦謡本は、江戸時代初期に出版されていた、光悦風の文字と図柄の謡本で、本文は活版印刷、表紙には、光琳や宗達の生み出した文様に関連の深い模様が摺られます。たいていは雲母模様で、鶴や蝶、竹、松林に波など日本の文様がほとんどです。梅の文様は、光琳のデフォルメされ意匠化された梅にそっくりでした。


《光悦謡本(上製本)》 江戸時代 17世紀 法政大学鴻山文庫


そして、光悦の《花卉摺絵新古今集和歌巻》では、竹や藤などが、光琳が燕子花図屏風で配置したように、同じ図案と思われる個所が巻物の中に繰り返されている部分があります。


《花卉摺絵新古今集和歌巻》本阿弥光悦 江戸時代 17世紀 MOA美術館


尾形光琳が琳派を生み出したと記述されることは多々ありますが、光琳の芸術には宗達と光悦の業績の影響はやはり欠かせなく、宗達と光悦が創始した琳派を発展させたのが光琳なのだと、実感することのできる展覧会でした。
毎年のように観る燕子花図屏風ですが、どの年の展覧会にも新しい発見があるのが楽しい、根津美術館5月の恒例展示でした。




〈開催概要〉
尾形光琳300年忌記念特別展
『燕子花と紅白梅 ―光琳デザインの秘密―』
開催期間:2015年04月18日(土)〜2015年05月17日(日)
休館日:月曜日(ただし5/4は開館)
時間:10:00〜17:00(5/12〜5/17は19:00まで開館/いずれも入館は閉館30分前まで)
入場料:一般1,200円/学生(高校生以上)1,000円/中学生以下は無料
会場:根津美術館 展示室1・2・5 
東京都港区南青山6-5-1

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フランス国立ケ・ブランリ美術館所蔵「マスク展」プレス内覧会 2015年4月24日 東京都庭園美術館

  • 2015.05.08 Friday
  • 13:50
※注:会場内の画像は、主催者の許可を得て撮影したものです。

東京都庭園美術館の、フランス国立ケ・ブランリ美術館所蔵「マスク展」開催前日の内覧会にお邪魔してきました。主催者の方のご配慮により、なぜかプレスとして扱っていただき、あつかましくも展覧会場内の写真まで撮らせて頂きました。

今回の展覧会は、アフリカ、アジア、オセアニア、アメリカなどのマスク(仮面)をテーマに開催されるものです。
こういった、世界各地の土着の民族が制作するモノは、その民族にとっては「美術」ではなく、もっと違う役割を持つものなのでしょう。かつては、私は、「プリミティブ・アート」と呼ぶことに抵抗がありました。考古学や博物学が扱うべきものだという固定観念があったからです。

しかし、憧れてやまない「モンパルナスのキキ」を、当時の愛人であったマン・レイが撮った写真を始めて見たとき、プリミティブ・アートは、制作者の意図ではなく、それに接した人々(この場合、1920年代のマン・レイはじめパリの芸術・文化人達)がそこから美的なインスピレーションを受けたことで「美術」として認識されるのだと感じたのでした。
美術品の価値、美の価値は、時代も国も越えて変わるものだということなのだろうなあと思ったのです。



1920〜30年代のパリは、私は出来ればこの時代に生まれたかった程大好きなのですが、それはそれはすごい時代なのです。
アールデコ全盛期で、セーヌ左岸モンパルナスにはキスリング、フジタ、ユトリロ、モディリアニなどのエコール・ド・パリの画家たちがいて、カフェではロートレックやピカソ、ヘミングウェーにプルースト、ジョイス、コクトーがたむろして、夜毎に芸術談義をしていて。

今回、マスク展が開催される東京都庭園美術館は、1930年代に、当時の最先端のアール・デコ様式で建てられた旧朝香宮邸です。この時代の建築に、当時のパリで注目されていたであろうプリミティブアートが映えます。




今回、内覧会にお邪魔するにあたって一番気になっていたのが、ポスターに書かれているキャッチコピーでした。「謳え、踊れ、驚異のハイブリッドたちよ」って、どういうことでしょうか?




仮面をつけて儀式で踊るとき、人間は、自分以外の他者、時には人ではない動物や精霊となることもできます。多くの民族がその民族の信じる神の物語を舞踊や演劇で表現する祭りや儀式を持っていますが、そういった舞や踊りで使う仮面をつけることで、演者は自分とは違う存在となることができますが、一方では神や精霊や動物などの演じている存在を自分に取り込むことができる・・・というような事を、かつて専門でもないのに履修しまくっていた文化人類学の講義や書籍でたくさん聞いたり読んだりしたなあと、なんだか懐かしくなりました。


《仮面》民族:バミレケ(カメルーン) 綿、ビーズ



《ヤヌス仮面(双面の仮面)》民族:イボまたはイガラ ベヌエ州、ナイジェリア 木、顔料


会場を回っていて面白いなあと思うのは、時代や形状、材料、用途を、民族や国でカテゴライズしようとしてもまったく意味をなさないことです。民族性や言語等を越えた人間の根源的なものを、プリミティブアートは表現しているように思えてなりません。

だからこそ、ピカソが、モディリアーニが、アンドレ・ブルトンが魅せられたのかもしれません。


《仮面》民族:オノンダーガ アメリカ合衆国またはカナダ トウモロコシの繊維、布


《仮面(虎)》ゲレーロ州、メキシコ 木、ラッカー、イノシシの歯と剛毛、皮革


アジア圏は、演劇ものが多いので、面白い仮面がちらほら。
映像で言うスローモーションの効果ありそうですね。歌舞伎見ていても思いますが、映像なしの舞台芸術で、スローモーションやパン、ズームアップやアウトに似た効果を狙ってくるところが、アジアの舞台って面白いなと思うのです。





ところで、今回の展示品の所蔵館、フランス国立ケ・ブランリ美術館とはどんな美術館でしょう。不勉強なせいか、私は「そんな国立の美術館、フランスにあったかなあ?」と記憶の底にも引っかからなかったのですが。
国立ケ・ブランリ美術館は、2006年にパリ・セーヌ河岸、エッフェル塔の近くに開館した、ヨーロッパ以外の地で生まれた文明と芸術との新しい関係をテーマに掲げた美術館なのだそうです。

これは、素晴らしい美術館ですね。
我々日本人もですが、先進国の人間は、現代の豊かさや技術などを人類がたどり着いた素晴らしい叡智の結晶で、他の文明や文化や過去の遺産を劣ったもの、歴史や人類学研究の資料、あるいは所謂プリミティブアートとして、進んだ文化の芸術家にインスピレーションを与えるものだと思い込みうぬぼれ、奢っているところが少なからずあります。

西洋文明とは異なる文明文化を紹介する美術館を、国のお金で創設するフランスって素晴らしい国だと思います。




ケ・ブランリ美術館も広大で庭園をもち、建物は、建築家ジャン・ヌーヴェルの設計による素敵な館のようです。「マスク展」は、ケ・ブランリ美術館が、アール・デコ様式の邸宅や庭の景観を活かした東京都庭園美術館の展示環境に注目したことで開催に至ったのだといいます。




各国の仮面の展示のほか、新館では、「仮面」をテーマとする世界各国の儀式の関連映像も観られます。「エンサイクロペディア・シネマトグラフィカ」と、「国立民族学博物館ビデオテーク」です。コートジボワールの仮面舞踊や、かつてカンボジア旅行では見られくて残念な思いをした仮面劇には、面白くて見入ってしまいました。


新館の売店では、ピエール・エルメ・パリのプティサイズのマスクショコラ「プティ ショコラ アール プルミエ」も買えます。これ、普段は、少なくとも日本ではバレンタインシーズンの期間限定品のはず。
展示用の大きい仮面もなかなかです。




売店には全体的に、「大人が本気でバカな企画してみました」感があふれていますが、今回のために造られたおみくじ、その名も「ますくじ」は是非!
ちなみに私は、パプアニューギニアの「カヴァット仮面」を引き当てました。この仮面をかぶって火を飛び越えたりしながら、夜通し踊り続けるのだそうです。なんだか、三島由紀夫の潮騒のような・・・
ラッキーアイテムは、キャンプ用着火剤だそうで(笑)






〈展覧会概要〉
フランス国立ケ・ブランリ美術館所蔵「マスク展」
会期:2015年4月25日(土)〜6月30日(火)
開館時間:10:00〜18:00
休館日:第2・第4水曜日(祝日の場合はその翌日)
会場:東京都庭園美術館
住所:東京都港区白金台5-21-9
TEL:03-5777-8600(ハローダイアル)
入館料:一般 1,200円(960円)、大学生 960円(760円)、中高生・65歳以上 600円(480円)
※( )内は20名以上の団体料金及び前売り(e+(イープラス)オンライン販売のみ)
※小学生以下は無料
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方と、その介護者1名は無料
※教育活動として教師の引率する都内の小・中・高校生及び教師は無料(事前申請が必要)
※第3水曜日(シルバーデー)は65歳以上の方は無料
※前売り券はe+(イープラス)にてオンライン販売
主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都庭園美術館、朝日新聞社
共催:フランス国立ケ・ブランリ美術館
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
協賛:大日本印刷株式会社
協力:エールフランス航空
年間協賛:戸田建設株式会社

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「ルオーとフォーヴの陶磁器」展web内覧会 2015年4月21日 パナソニック汐留ミュージアム

  • 2015.04.30 Thursday
  • 17:50
注:会場内の画像は、特別観賞会時に主催者の許可を得て撮影したものです。(撮影許可は、第1章:陶芸家アンドレ・メテ ―その作品と生涯のみ)

パナソニック汐留ミュージアムで開催中の、「ルオーとフォーヴの陶磁器」展web内覧会に行ってきました。
ルオーと、フォーヴィスムの代表的画家であるマティスは、同じ時期にギュスターヴ=モローに指導を受けていたからまだわかるにしても、陶磁器ってどういうことでしょう???



会場で最初に迎えてくれる作品群は、釉薬のなだれ具合やぼかし加減などがまるで日本の陶磁器のようなたたずまいでした。
これらの陶器は、20世紀初頭にフランスの陶芸家アンドレ・メテが制作したものです。会場内の解説や、内覧会での学芸員からのレクチャーによると、Т錣箸いΦ史,農作した初期の作品群は、やはり日本の陶磁器から影響を受けているのだそうです。



会場内にあるメテの肖像画からは、物静かで職人気質そうな印象を受けます。
Т錣ら、磁器、ファイアンス、施釉陶器へと技法を変えていったメテの陶芸作品は、ルオー、マティス、ドランらの画家たちを一時期夢中にさせ、彼らの作品を扱っていた画商ヴォラールの手引きで、メテの陶器にフォーヴィスム周辺の画家たちが絵付けをしていた時期があったのだそうです。

フォーヴの画家が絵付けした陶磁器なんて初耳ですが、これまで、専門書で言及されることはあっても、展覧会で広く一般向けに紹介されるのは今回が初めてだということです。





第1章:陶芸家アンドレ・メテ ―その作品と生涯

独学で独自の道を切り開いたとはいえ、メテの陶磁器作品は、その制作時期が1901年〜1920年と、アール・ヌーヴォーからアール・デコへと向かう時期を反映したのか、どれもとても華やかで優美なものです。
最終的に落ち着くことになった技法、施釉陶器による作品群は、どこかイスラムの芸術品のような、華やかで細かい文様のものがほとんどです。



メテの作品は、装飾性と色彩性に優れています。
ファーヴィスムの語源は、1905年のサロン・ドートンヌにおいて、マティスたちの絵画を、同じ部屋にあったルネサンス彫刻とからめて「まるで野獣に取り囲まれたドナテッロ」だと批評されたことにあります。
サロン・ドートンヌでは、彫刻、装飾美術なども重要視されていましたから、大胆な色彩にあふれたメテの作品に、フォーヴィスムの画家たちが魅せられたのはわかる気がします。

そして、作品への絵付けの際にとても緻密な下絵を何度も描き、時間と工数をかけて制作に取り組んでいたことが、会場内の展示からわかります。作品と下絵を見比べるのも面白いです。




メテ夫人が庭で作品に花を生けている写真パネルの前に、テーブルコーディネートされた作品が並んでいました。



メテの作品は、ティーカップやソーサー、お皿などでも大きかったり、デザイン上実用に向いていなかったりで、おもに装飾品として使われていたようです。




第2章:フォーヴの陶磁器 ―火の絵画

第2章では、マティス、ドラン、ヴラマンクらフォーヴの画家たちと、マイヨール、ラプラード、ヴァルタ、ピュイのフォーヴ周辺の画家たちが絵付けした作品が、彼らの絵画と共に展示されています。撮影許可が下りていなかったので、写真が取れなかったのが心残りですが、絵画やパネル展示と陶磁器が一同に会した様子はなかなか圧巻でした。


アンドレ・ドラン《花瓶 幾何学模様》 1907年 パリ市立近代美術館 (C)Jean-Yves Trocaz



アンドレ・ドラン《静物》 1932年頃 ポーラ美術館


フォーヴの画家たちは、国立美術学校でギュスターヴ・モローに指導を受けていた仲間で、彼らの多くは画商ヴォラールが作品を取り扱っていました。
メテの陶磁器に魅了されていたヴォラールが、フォーヴの画家たちをメテの工房に連れて行き、絵付けをさせるようになりました。

展示されている陶磁器を見ると、形や大きさがまったく同じものがいくつもあり、メテが成形、画家たちが絵付け装飾をしていた事がうかがえます。
パナソニック、DNPの技術を生かした動画でその様子が解説されていました。陶器の形に造られた壁に映像を投影していて、立体感抜群です。この美術館、照明やプロジェクタ映像などの技術が変わっていて面白いのです。

ファイアンスー陶工メテ×フォーヴの画家のコラボレーション



メテの陶磁器へのファーヴの画家たちの絵付け作品は、1906年頃からの数年という、ごく短い期間のみの制作でしたが、画家それぞれ個性に溢れていて、楽しめる展示です。
これら、フォーヴの陶磁器は、1907年のサロン・ドートンヌにまとめて出品されたのだそうです。


第3章:ルオーと陶芸 ―色彩とマティエール

フォーヴの画家たちの絵付けが数年のみ、画家によっては2年ほどのごく短い期間であったのに対し、ルオーは7年間にもわたって、様々な主題の陶磁器作品を制作しました。
フォーヴの画家たちは、実験的であったり、遊び心のようなものを感じる絵付けが多いのですが、ルオーは絵画と同様のテーマと色彩を陶磁器に施しています。釉薬の輝きやツヤ、絵画とは違う立体感をよく計算したうえで絵付けしていることが、第2章のフォーヴの画家たちの作品と見比べるとよくわかります。



ジョルジュ・ルオー《花瓶 水浴の女たち》 1909年 パナソニック 汐留ミュージアム




当時、生活と装飾芸術を結び付ける潮流があったようです。陶磁器に画家が絵付けする、それもルオーのような作品は、当時どのくらい受け入れていたのでしょうか。
なかなかレアな展覧会ですが、出展元を見ると、個人蔵がやはり多いですが、美術館所蔵品も割とあります。今後もこういった展覧会が増えるといいなと思いました。




〈開催概要〉
開館期間:2015年4月11日(土)〜6月21日(日)午前10時より午後6時まで(ご入館は午後5時30分まで)
休館日:毎週水曜日(但し4月29日、5月6日は開館)
入館料:一般:1,000円 65歳以上:900円 大学生:700円 中・高校生:500円 小学生以下:無料
※20名以上の団体は100円割引
障がい者手帳をご提示の方、および付添者1名まで無料でご入館いただけます。
主催:パナソニック 汐留ミュージアム、NHKプロモーション、毎日新聞社
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本、港区教育委員会協賛、大日本印刷
協力:エールフランス航空
特別協力:ジョルジュ・ルオー財団


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「高橋コレクション展 ミラー・ニューロン」内覧会 2015年4月17日 東京オペラシティアートギャラリー

  • 2015.04.27 Monday
  • 17:00
「高橋コレクション」といえば、日本現代アートシーンを語る上では避けて通れない、高橋龍太郎氏のコレクションです。
東京オペラシティアートギャラリーで、高橋氏が日本のアートと文化を考えるためのキーワードとして提案する「ミラー・ニューロン」をタイトルとした展覧会がはじまりました。会期前日に、内覧会にお邪魔できることになったので、行ってきました。




今回、展覧会のタイトルに選ばれた「ミラーニューロン」は、他者の行為への共感を司る運動神経細胞です。運動神経なので、他者との共鳴だけではなく、その行動を模倣する時にも活動電位が高くなります。
日本文化には、「見立て」「やつし」といった、いわば模倣とも言える表現技法がありますし、反復は日本のみならず、現代アートの要素のひとつえもあります。
精神科医である高橋龍太郎氏が、自らのコレクション展のタイトルに「ミラーニューロン」を選んだ理由が展示をいたらわかるだろうかと期待しながら、会場へ向かいました。




受付を通り過ぎると、草間彌生の立体作品が迎えてくれます。自由に記念写真が撮れる撮影スポットです。


以降、展示順路順に、気になった作品を挙げていきます。

まずは、草間彌生部屋。タイトルからして、レペティション=反復です。私は、草間彌生の反復の根底は、脅迫もしくは強迫観念にあると思うのです。強迫による抑圧から解放されるために、反復(草間彌生の場合は水玉)しているのではないかと。
水玉の集積と反復は、おそらく、制作中の草間彌生にとっては水玉を描く作業の中に自己を埋没させる効果があるのでしょう。そして、あの水玉によって、描かれた対象は匿名性を帯びた存在となり、アイデンティティを曖昧化させられ、観る者から、自己を隠すことができるのではないかと思っています。
私は、草間彌生作品の反復にはそんな側面があると考えています。


草間彌生《レペティション A, B》1996 フォトコラージュ、ペイント、紙 24.3×33.4 cm Photo:KIOKU Keizo (C)Yayoi Kusama Courtesy of KUSAMA Enterprise, Ota Fine Arts


奈良美智やアラーキー、先日、菊池寛実記念 智美術館でも観た井上有一などを見送ると、鴻池朋子作品が。


《第4章 帰還―シリウスの曳航》では、複数のオオカミがひとつの旧のように集まり、そこから少女の脚が伸び、昆虫の羽が生えて広がり、波しぶきで海と繋がって巻き込まれようとしています。

私が鴻池作品を好きな理由は、異質なものが一見混沌と組み合わされているようでいて、そこに排除や拒否のニュアンスが感じられないところです。異質な存在と交わろうとするエネルギーというか、本能的な憧れのようなものさえも感じます。

人間にとって、究極には、自己以外のものはすべて異質な他者です。交わろうとするには、他者への共感は不可欠です。他者とのかかわりは現代人にとっては大きなテーマですから、それを扱った作品はとても多いです。
《第4章 帰還―シリウスの曳航》はこれまでも観たことがありますが、「ミラーニューロン」のことを考えながら改めて鑑賞すると、少し違った視点がから考えられる気がします。


鴻池朋子《第4章 帰還―シリウスの曳航》2004 アクリル絵具, 墨, 雲肌麻紙, 木パネル 220.0 x 630.0 x 5.0 cm (C)KONOIKE Tomoko Courtesy of Mizuma Art Gallery


一昨年、森美術館で行われた会田誠個展「天才でごめんなさい」にも出展されていた戦争画RETURNSシリーズです。あのとき、「そうかこれも高橋コレクションなのか、9・11の何年も前の1990年代に戦争画を描いた会田誠もすごいけれど、それを完成した途端に買った高橋氏もすごいよね」と思ったものです。

太平洋戦争当時に藤田嗣治はじめ多くの画家によって描かれた戦争画の模倣であることは言わずもがなですが、決してオマージュではないところが私は好きです。一見、現代美術家ならだれもが一度は通る、「社会や政治や体制への批判」に見えますが、実はまったく「これ」という思想ではないのですよね。つまり、混沌としていて無思想で流されやすく一過性であるこの現代社会を批判しているのだと私は思うのです。つまり、模倣しながら、皮肉っているわけです。
馬鹿でチャラチャラした風を装いながら、こういう表現をする会田誠が大好きです。


会田誠《美しい旗(戦争画RETURNS)》1995 襖、蝶番、木炭、大和のりをメディウムにした自家製絵具、アクリル絵具(二曲一双屏風) 各169×169cm 撮影:宮島径 (C)AIDA Makoto Courtesy of Mizuma Art Gallery


会田誠《紐育空爆之図(戦争画RETURNS)》(にゅうようくくうばくのず) 1996 日本経済新聞、ホログラムペーパーにプリントアウトしたCGを白黒コピー、チャコールペン、水彩絵具、アクリル絵具、油性マーカー、修正液、鉛筆、襖、蝶番、その他(六曲一隻屏風/) 169×378 cm 零戦CG制作:松橋睦生 (C)AIDA Makoto Courtesy of Mizuma Art Gallery


社会派と言えば、高橋コレクションでは、風間サチコの列島改造人間が好きですね。
風間さんは私と同じ1972年、オイルショックやあさま山荘事件が起こり、田中角栄が総理に就任した年に生まれています。もちろん、リアルタイムに知識として実感していたわけではないのでしょうが、まさに列島改造論のとおりゼネコンが日本中に様々なものを作り、今からではあり得ない、異常ともいえる右肩上がりの経済成長の中で成長し、その弊害を目の当たりにしてきたわけです。

それは、いわば、戦後の日本が欧米の模倣をして、バブルに酔うこともできたけれども、破綻を迎えた歴史の中を生きていたといえます。


風間サチコ《列島改造人間(弾丸レッシャー)》2002年 パネル、和紙、墨 72.5×51.5cm 木版画 (C)Sachiko Kazama Courtesy of Mujin-to Production Tokyo



風間サチコ《列島改造人間(ドボッケン)》2002年パネル、和紙、墨 72.5×51.5cm 木版画 (C)Sachiko Kazama Courtesy of Mujin-to Production Tokyo


さて、模倣と言えば、森村泰昌の美術史シリーズです。西洋美術の名作に、森村泰昌自身の顔を合成した写真作品ですから。
これは美術に限った事ではありませんが、日本は江戸時代の鎖国政策から一気にグローバル化し、西欧の技術文化を取り入れてきました。太平洋戦争における敗戦後も、おもにアメリカの民主主義と平等主義に曝されてきました。
しかし、日本には他の急速にグローバル化した国と比べて、独自に培ってきた1000年以上にわたる伝統文化という背骨となる感覚があります。

西洋絵画に、日本人の顔を当てはめ、アレンジしていることで、日本ならではの東洋の感覚と西洋の価値観の葛藤と抑圧が、親和性があるのにどこかちぐはぐな、まさに現代日本アートと現代日本社会の抱える違和感が表現されていると思うのです。


森村泰昌《はじまりとしてのモナ・リザ》1998 カラー写真プリント 77x54.5cm (C)Morimura Yasumasa Courtesy of ShugoArts


森村泰昌《第三のモナ・リザ》 1998 カラー写真プリント 77.0×54.5cm (C)Morimura Yasumasa Courtesy of ShugoArts


私が高橋コレクションを知ったのは、2011年年末に日ノ出タブロイドギャラリーで行われた、「コビケンは生きている。−高橋コレクションより−」展でした。

高橋龍太郎氏が、高度経済成長期とその後のバブル崩壊で日本経済そのものが疲弊していた1990年代、日本の美術市場を買い支えたすごいコレクターであることをそのとき初めて知ったのです。
コビケンは生きている展の前年まで全国の地方美術館を巡回していた「ネオテニー・ジャパン」展が、SNSによる情報発信によって、現代アートでは集客できないとの地方美術館の予想を越えた観客動員数を記録したことも。

今では、そういったSNSやウェブを使った広報や集客活動は、どんな美術館やギャラリーでも取り入れていて、飽和状態ともいえます。

高橋コレクションの所蔵する日本現代アートの良さは、現代アートらしい西欧の手法を使っているようでいて実はとてもドメスティックで日本的な部分のある作品群にあると私は思います。
日本の現代文化は、西洋の文化のミラーのようでいて、まるであわせ鏡のなかの像が少しずつ変わっていくように、独自のものに形を変えています。

高橋コレクションは、また、コレクションが牽引し俯瞰してきた日本のアートシーンは、これからどこへ行くのでしょうか?「ミラーニューロン」のように、相手に共感し、模倣し、その相互作用を続けながら。


高橋龍太郎氏VSアーティストのトークショー、聞きに行こう。



〈開催概要〉
高橋コレクション展 ミラー・ニューロン
会場:東京オペラシティ アートギャラリー
住所:東京都新宿区西新宿3-20-2
会期:4月18日から6月28日
時間:11:00から19:00(金曜日・土曜日は20:00まで。入館は閉館の30分前まで)
料金:一般1,200円 大高生800円
休館日:月曜日(5月4日は開館)


[関連イベント]
ギャラリートーク「コレクターVSアーティスト」
日時: 各日16:00-17:00
場所: 東京オペラシティ アートギャラリー展示室内
第1回: 4月18日(土)
出演: 高橋龍太郎、青山悟、風間サチコ、加藤泉、塩保朋子、各氏ほか
第2回: 5月24日(日)
出演: 高橋龍太郎、鴻池朋子、近藤亜樹、松井えり菜、宮永愛子、各氏ほか
※当日の展覧会入場券が必要です。
予約不要、ただし参加状況により入場制限を行う場合がございます。
対談「名和晃平VS鈴木芳雄」
日時: 5月16日(土) 14:00 -15:00
会場: 東京オペラシティビル7階第一会議室(定員80名/全席自由)
参加費: 無料(展覧会の入場は別料金)要整理券
※当日11:00よりアートギャラリー受付にて整理券を配布します。


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大英博物館展ナイト(後編) 2015年4月18日 東京都美術館

  • 2015.04.22 Wednesday
  • 11:12
注:会場内の画像は、特別観賞会時に主催者の許可を得て撮影したものです。

「大英博物館展ナイト(前編) 2015年4月18日 東京都美術館」の続きです。


第5章 広がる世界(300AD〜1000AD)

古代国家の独自性と、各国家に共通する普遍性も興味深いのですが、交易がはじまると歴史的には俄然面白くなります。
シルクロードの交易や、この時代にカール大帝が西ヨーロッパのほぼ全土を掌握していたことがわかる展示品も面白いのですが、私が興味を持ったのは、ヴァイキングの遺宝でした。
ヴァイキングは侵略者として恐れられていましたが、侵略だけではなく、北欧はもちろん中央アジアにいたる交易ルートを支配していました。この遺宝は銀製ですが、それはヴァイキングが財産の価値を土地と銀の重量で計っていたためです。この銀貨はイングランドで出土していますが、銀貨のうち、アングロサクソンの硬貨は3枚のみで、あとはイスラムのディルハム貨なのが、ヴァイキングの支配地域の広さを物語っていますね。


《ヴァイキングの遺宝》925年頃 イギリス、ノースヨークシャー州ゴールズバラで出土


ヨーロッパ、アジアでは交易が盛んになる中、独自の文化が発展していた中南米も面白いです。
マヤ文明は中央アメリカで最も長く続いた古代国家ですが、アメリカ大陸内で交易していたので、独自の文化を築きました。祭壇に掘られた文字やレリーフから、複雑な信仰や暦を持つ高度な文明であったことがわかります。
遺跡のレリーフが大好きなので、時間をかけて見入ってしまいました。


《マヤ文明の祭壇》763〜822年頃 ホンジュラス、コパン


第6章 技術と芸術の革新(900AD〜1550AD)

中世になると、科学技術が飛躍的に発展し、それは芸術の分野にも変化をもたらします。

映画版「ハリー・ポッターと賢者の石」で使われた《ルイス島のチェス駒》は、セイウチの牙で出来ています。セイウチ牙貿易の中心地であった、ノルウェー・トロンヘイムで製作されたと考えられていて、スコットランドのルイス島で発見されました。
チェスの期限はインドですが、ヨーロッパでクイーンとビショップ(司教)が盤上に加わったのだそうです。ヨーロッパでは司祭の地位が高かったからですね。
交易と技術の革新が融合した結果ですね。


《ルイス島のチェス駒》1150〜1200年 おそらくノルウェーで製作 


古代ローマ将軍の遺骨を納めるための容器はとても精緻な細工で、13世紀にはもうこんなに緻密な金工技術があったのかと驚きます。


《聖エウスタキウスの聖遺物容器》1210年頃 スイス・バーゼル

言われてみれば、グーテンベルクによる印刷の発明は15世紀のことだったことや、ニュルンベルクは多くの皇帝が居館を置き、印刷の街、交易の拠点としても、中世に最盛期を迎えていたとかつて歴史の授業で習いました。ワーグナーのオペラ「ニュルンベルクのマイスタージンガー」もニュルンベルクが舞台ですよね。

デューラーや、このころの版画作品はこれまでも好きでしたが、技術革新の歴史という観点から見ると斬新です。活版印刷の発明と印刷業の隆盛が背景にあったから、デューラーはじめとする芸術家たちの版画制作があったのですね。

タッチは精緻ながら鎧をまとったような現実離れした犀が描かれているのは、当時、初めてインドからポルトガルにやってきてヨーロッパじゅうが犀ブームになり、デューラーが版画を制作するのにあたって、実物ではなく、書簡やスケッチのみを見て描いたからです。


《デューラ一作「犀(さい)」》1515年 ドイツ、ニュルンベルク


第7章 大航海時代と新たな時代(1500AD〜1800AD)

大航海時代の幕開けは、同時に帝国主義と植民地時代の幕開けでもありました。それまでヨーロッパとは関わりのなかったアジアやアメリカ大陸の国々との交流やキリスト教の伝来を生みました。一方で、宗教改革により、カトリックから分離した宗教的背景がわかる展示も興味深いです。


ヨーロッパ各国と日本の交易がはじまったのは戦国時代ごろですが、同時期にアジアの各国とも貿易を行っていました。明は、アジアの磁器産業市場を独占していましたが、1644年に明が滅亡すると、しばらくの間は日本が市場を独占していました。当時の日本の陶磁器は中国の染付の影響を強く受けていて、柿右衛門様式のような豪華な作品はヨーロッパで好まれたようです。


《柿右衛門の象》1650〜1700年 日本


表裏にギリシャ神話の英雄が掘られたカメオは、1530年の皇帝戴冠式で、神聖ローマ皇帝カール5世から教皇クレメンス7世に贈呈された可能が高いとのことです。当時、ヨーロッパ全土にルターの宗教改革思想が広まっていることに脅威を感じていた皇帝と教皇は、この時期、ルターを共通の敵と認識することで友好を結んでいたのです。


《両面式のカメオ》1500〜1600年 イタリア


プロテスタントは単一組織ではなく教派教団の総称なので、カトリックでいうローマ法王のような、代表的な最高指導者がいません。そのため、印刷技術を利用してメッセージを広めていました。
宗教改革100周年を記念して制作されたポスターでは、ルターの持つ誇張された羽ペンの先が教皇の冠をたたき落としていています。


《宗教改革100周年記念ポスター》1617年 ドイツ


第8章 工業化と大量生産が変えた世界(1800AD〜)

19世紀の産業革命以後は、工業化と大量生産の時代が幕を開けます。世界各地に工業化の影響が波及すると、紛争や大戦も起こります。使い捨てを生んだ大量生産は、環境問題も引き起こすようになりました。


アメリカの政治運動には欠かせない大統領選挙バッヂは、安く制作でき、簡単に処分可能で、短期間にのみ活用される、まさに「使い捨て」商品です。
大量生産された「モノ」も、現代社会の抱える問題に対するメッセージを語りかけてきます。


《アメリカの選挙バッヂ》1868〜1993年 アメリカ

大英博物館にはクレジットカードまで収蔵されているのかと感心しつつも、よく見てみると、カード中央部に見慣れない模様が入っています。この模様は、「利息は搾取である」とのイスラム教義にしたがっていることを表しているのだそうです。ということは、リボ払いやキャッシングは不可ということでしょうか?

銀行は香港のHSBC(香港上海銀行)、クレジット会社はアメリカのVISA、カード製造発行はアラブ首長国連邦と、国の垣根を越えた経済活動が簡単に行えるようになったことを示している展示物と言えるでしょう。


《クレジットカード》2009年 アラブ首長国連邦


展示は、このあと、この先の未来を語る「101点目の展示品」で終わります。
サイトでも、「あなたが選ぶ“101点目”人気投票」として、現代を象徴し、未来に繋がる歴史の1ページを飾るのにふさわしい101点目のモノへの投票又は募集を受け付けています。今の生活で当たり前のように使っている何かが数十年後、大英博物館に陳列されるようになるのでしょうか。楽しみです。


展示は、6月28日(日)まで。もう一度くらいゆっくり見に行けるといいなと思っています。




〈展覧会情報〉
■会期:2015年4月18日(土)〜6月28日(日)
■会場:東京都美術館 企画展示室
■開室時間:午前9時30分〜午後5時30分(金曜日は午後8時まで。入室は閉室の30分前まで)
■休室日:月曜日、5月7日(木) ただし5月4日(月・祝)は開室
■観覧料:一般1600円(1300円)、学生1300円(1100円)、高校生800円(600円)、65歳以上1000円(800円)※カッコ内は前売・団体料金
■お問い合わせ:03・5777・8600(ハローダイヤル)
■主催:東京都美術館(公益財団法人東京都歴史文化財団)、大英博物館、朝日新聞社、NHK、NHKプロモーション
■後援:ブリティッシュ・カウンシル
■協賛:花王、大和ハウス工業、三菱商事、あいおいニッセイ同和損保
■協力:日本航空、キャセイパシフィック航空、アイディールブレーン

※巡回予定

2015年7月14日〜9月6日 九州国立博物館

2015年9月20日〜2016年1月11日 神戸市立博物館


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大英博物館展ナイト(前編) 2015年4月18日 東京都美術館

  • 2015.04.21 Tuesday
  • 17:15
注:会場内の画像は、特別観賞会時に主催者の許可を得て撮影したものです。

東京都美術館で「大英博物館展」が開催されています。副題は、「100のモノが語る世界の歴史」。
約700万点の所蔵品を誇る大英博物館から来日した100の展示品から、モノの背景を読み解き、人類の歩みから世界の歴史に迫る展覧会です。
初日に行われた、ブロガー対象夜間観賞会に行ってきました。



最初に入口で学芸員さんの展覧会全体の解説を聞きます。大盛況です。

今回のブロガーナイトでは、音声ガイドをお借りできました。ナレーターは、タイムスクープハンターの要潤。展示品の時代にタイムワープして、解説してくれます。
主催者にNHKが入っているからでしょうか。さすがにあの沢嶋雄一のキメ台詞はありませんが…!

最後のボーナストラックNo.100、【タイムスクープハンター、東京都美術館に潜入!】でばっちり聞けます。
「アブソリュートポジション台東区上野公園、アブソリュートタイム、西暦変換すると2015年東京都美術館に無事、タイムワープ成功しました。これより、コードNo.100東京都美術館を記録開始します!!」

ボーナストラックNo.100は必聴ですよ!内容は、都美や展覧会特別メニューのご案内でした。





展覧会の章建ては、時系列順になっています。
第1章 創造の芽生え
第2章 都市の誕生
第3章 古代帝国の出現
第4章 儀式と信仰
第5章 広がる世界
第6章 技術と芸術の革新
第7章 大航海時代と新たな時代
第8章 工業化と大量生産が変えた世界



最初にプロローグとして、古代から現代までの様々な棺の展示があります。大英博物館と言えば、ミイラに棺です。(今回はミイラは展示されておりません)



棺をみると、埋葬されている人物の人生や社会背景などを想像してしまいます。どんな物語があったのでしょう。
その人物が遠い過去の人で、もう存命していなくとも、想像の翼を広げることができます。
「モノ」が語るから「物語」なんですね。


第1章 創造の芽生え(2000000BC〜2500BC)

大英博物館約700万点の所蔵品のうち、最も古い時代のものが、この礫石器なのだそうです。
一見なんでもない石ですが、たたき割ることで鋭利にし、動物の骨髄を割って高カロリーな脂肪分を摂取するのための道具です。
道具の製作は、人類の祖先の脳が類人猿に比べ発達した証拠でもありますが、栄養を摂ることは、屈強な体を作り、より一層多くの獲物を狩り、子孫を多く生み残すことにつながりますから、食事に関わる道具の製作は、飛躍的に人類を発展させるきっかけになったということですね。
料理道具なども興味深く拝見しました。


《オルドヴァイ渓谷の礫石器》タンザニア、オルドヴァイ渓谷


日本の縄文土器も出展されていますが…私は考古学も好きなので、土器や土偶もよく見ますが、蓋つきの縄文式土器なんて初めてです。内側に金が施してあるのもおかしいですし…

これは、19世紀に加工され、蓋が作られ、茶事の際に水差しとして使われていたのだそうです。シーボルトによって持ち帰られ、大英博物館がシーボルトの息子に当たる人から購入したのだそうです。

なんだか、2011年、アートフェア東京の時の古美術展示を思い出します。使ってこそ、加工して愛用してこそ、古美術品も価値があるというものです。


《縄文土器》日本


第2章 都市の誕生(3000BC〜700BC)

共同体集落から都市文明へと発展していくと、権力を集中させるために文字や様々な文化、原始的な統治の仕組みが見られるようになるので面白いですね。

メソポタミア文明、ウルで作られた、《ウルのスタンダード》は、その用途は全く不明な謎の箱ながら、表面に描かれた絵からは、当時の風俗や統治、戦争の様子がよくわかります。


平和面では、王が他の人物より大きく描かれ、人々が王に向けて杯を掲げていることから、集権の仕組みができていたことがわかります。また、竪琴が使われ、音楽を楽しむ余裕のある生活であったことや、魚や動物を献上していることから食生活も想像できます。


《ウルのスタンダード(平和面)》紀元前2500年頃 イラク

戦争面からは、当時の戦車はロバが引いていたことや、捕虜は裸にされて王の前に差し出されていたことがわかります。
世界遺産や遺跡を訪ねるのも趣味なので、こういうモノを見るとテンションが上がりますね。


《ウルのスタンダード(戦争面)》紀元前2500年頃 イラク


統治するために、どの文明でもたいていは文字が生み出され発達していきます。
このメソポタミアの粘土板には、楔形文字で、労働の対価としてビールが配給されていたことが書かれているそうです。なぜ、ビール?食べ物や衣服は別の形で支給されていたか、それらを得ることができる別の対価が支払われていたのでしょうか。


《楔形文字を刻んだ粘土板》紀元前3100〜前3000年 イラク南部


第3章 古代帝国の出現(700BC〜100AD)

都市国家がより強固な帝国となっていくと、王の強い統治力を示す出土品が増えていきます。
支配者の威光を広く示すための墓や葬送品は、歴女垂涎の陳列物です。

現在のスーダンにあった、クシュ王国の副葬用の小像、シャブティは、王はじめ重要人物の墓に安置されていたそうです。私には見ただけではよくわかりませんが、エジプト人とサハラ以南のアフリカ人の特徴が混じっていることから、当時の国家の様子がわかるのだそうです。


《タハルコ王のシャブティ》紀元前664年 スーダン


どの古代国家でも宗教と統治の関係は密接なので、古代遺跡は宗教の観点で見ると面白いですね。


《アマラーヴァティーの仏塔彫刻》200〜240年 インド


第4章 儀式と信仰(1AD〜800AD)

古代から国家と宗教の間には切っても切れない関係がありますが、世界宗教と言われる仏教、キリスト教、イスラム教や、ヒンドゥ―教が出現し普及し始めると、世界は一変していきます。


イスラム教以前に、イエメンで信仰されていた「タラーブ・リヤム」へ捧げられた手形からは、その後、ユダヤ教、キリスト教、ゾロアスター教が次々に興隆していく中で、失われた土着宗教への信仰心が見てとれます。
小指が不自然に曲がった形は、寄進者の手をかたどったものだと考えられています。指を骨折していて、奉納するほど信心深かったこの寄進者はどんな人生を歩んだ人だったのか想像すると、展示室での時間はあっという間に過ぎていきます。


《アラビアの手形奉納品》100〜300年 イエメン


こちらは、ペルシャ発祥のミトラス教の神像です。ミトラス教では、雄牛の肉と血は再生を意味します。血と肉を象徴するパンとワインを口にする儀式が行われ、それがキリスト教と酷似していることから、キリスト教徒は脅威を感じていて、キリスト教がローマ帝国で優勢になると、ミトラス教は滅んでしまったのだそうです。
政治と密接だから、宗教のことを知るのは面白いですね。


《ミトラス神像》100〜200年 イタリア、ローマ


他にも、古い宗教に寛容だった国家の展示品もありました。
長くなってきたので、一旦切ります。後編はまた後日アップします。



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「遠くて近い井上有一」展チケットプレゼント

  • 2015.04.10 Friday
  • 08:00
菊池寛実記念 智美術館で、7月26日(日)まで「遠くて近い井上有一」展が開催されています。
文字の力、言葉の持つパワーと気迫が伝わってくる書の展覧会です。(拙ブログ記事


展覧会公式サイト

〜公式サイト解説より〜

井上有一は、小中学校の教師として勤めるかたわら、創作活動を行い、書の道を追求しました。紙をはみ出して書かれる豪快な一字書や宮沢賢治の作品を基にした多文字書からは、命を削るようにして制作に打ち込んだ作家の気迫が伝わってきます。 展示では、書壇にデビューした1950年から晩年までの約50点(※)の作品によって、井上有一の創作を一望します。

(※)会期中に一部の作品を展示替えいたします(予定)

《展覧会情報》
会場:菊池寛実記念 智美術館
   〒105-0001 東京都港区虎ノ門 4-1-35 西久保ビル(日比谷線・神谷町駅:出口4bより徒歩6分)
   TEL:03-5733-5131(代表)
会期:2015年4月4日(土)〜 7月26日(日)
休館日:毎週月曜日(ただし5/4、7/20は開館)、5/7(木)、7/21(火)
開館時間:11:00〜18:00  ※入館は17:30までになります
主催:公益財団法人 菊池美術財団、日本経済新聞社
協力:ウナック トウキョウ

この展覧会のチケットを、2名様に抽選でプレゼントいたします。(締め切りは4月26日(日)24:00)
ご希望の方は、件名を「遠くて近い井上有一展チケット応募」とし、本文にお名前(本名)、当プレゼント企画を知ったきっかけを明記の上、メールにてご応募ください。


※応募は締め切らせていただきました。なお、チケットの発送をもって当選者の発表と代えさせて頂きます。ご了承ください。

宛先は下記画像に記載されたメールアドレスになります。


こちらからのご連絡ならびにチケット発送をもって、当選の発表と代えさせて頂きます。
ご了承ください。



展示室風景


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「遠くて近い井上有一」展ブロガー特別鑑賞イベント 2015年4月4日 菊池寛実記念 智美術館

  • 2015.04.06 Monday
  • 15:23
注:会場内の画像は、特別観賞会時に主催者の許可を得て撮影したものです。

菊池寛実記念 智美術館で開催中の、「遠くて近い井上有一」展ブロガー観賞会へ行ってきました。




お恥ずかしながら、井上有一のことは全く知らず、観賞会案内サイトに掲載されていた展覧会ポスターを見て、「書と陶芸の展示なんだろうな」と勝手な思い込みで行きましたら、なんと、書のみの展示でした。
びっくりです!!!!

だって、ここの美術館、陶芸専門美術館なんですからまさか書のみとは・・・
学芸員さんの説明によると、オ−ル平面作品展示は美術館開設以来、2度目だそうです。


学芸員によるギャラリートーク風景


展示は、時系列ではなく、似通った作品ごとに並べられています。
前衛書道の時代、一字書が、智美術館独特の内装、レイアウトによくマッチしています。


展示風景


井上有一という人を私はよく知らないで鑑賞イベントに来てしまったのですが、若いころは洋画家を目指すも、経済的理由で断念、教員をしつつ書の道に入るが戦争などでなかなか作品を発表する機会に恵まれなかった人のようです。
勤務先の小学校で東京大空襲に遭い、仮死状態となり、その時の体験が井上を書に向かわせたそうですが、被災体験を書にした「噫横川国民学校」を作品として表すことができたのは、30年近くあとのようです。

彼の文字は、内面の激しさがそのまま和紙に書き写されたようで、「言葉ってこんなに力があるものなんだ」と感じさせる作品ばかりです。
教員としては、校長まで勤め上げ、勤務態度も定評あり、収入も安定していたようですが、書へ向かう気持ちが表れた言葉はとても強いものです。

「必死三昧」を書いたころ、書の同人『墨人会』会報に寄せた言葉では、「もっと書一筋に生きなければダメだ。・・・どこか古い家に住んで、食い物なんかそれこそナッパと大根くらいでいい。金は紙と筆を買うのと、表具するだけは十分欲しい・・・」
実際に困窮しているしていないというより、強い制作意欲が文字に表れていると感じました。


「必死三昧」 1969年 61.0×72.8


最初の展示室では、70年代の一字書が主に展示されています。
「月」は、ボンドを混ぜたボンド墨で書かれていて、写真では分かりづらいのですが、実際に見てみるとハネのあたりが盛り上がったり、かすれ方も独特です。


「月」 1978年 141.0×171.0


文字を通り越して、抽象画の域に達してしまった作品もあります。
「音」って、こういう向こうの世界から響いてくるものだよなあ、と感心して見ていました。
この頃、アメリカでは、日本の前衛書道が大変人気だったそうですが、その前からのジャクソンポロックしかり、オノヨーコしかり、前衛芸術のムーブメントの影響はもちろんあるのでしょうが、表音文字を使っているアメリカ人の眼には、日本語の表意文字の世界がアートとして映ったのではないかと思いました。


「音」 1972年 62.7×66.8


鑑賞イベントから帰って井上有一について書かれた本を読んでみると、例えば、下記の「鷹」については、『「書を書くのではなくて鷹を書く」と思って、書いた』と言っていますが、また一方で、『漢字発生当時の象形文字はきわめて魅力に富んでいる。しかし漢字を書くことの中で現代書道を創造しようとする私にとって、それはいくら魅力があっても死んだ文字にすぎない』とも言っています。
何かを踏襲するということはしないのが、井上有一のスタイルだということなのでしょうね。


「鷹」 1981年 107×137


しかし、現代美術の潮流がポップアートに移っていくと、前衛書道の発表場所は次第に失われて行き、それとともに、一時期抽象絵画のような書道になっていたのが、次第に文字へと作風が変わっていきます。



井上が一字書に傾倒する前にもともと書いていたのが、宮沢賢治の詩や法華経などの一節で、戦中の仮死体験の記憶がまだ色濃く残る頃なのでしょうか、心の中にある感情と信念がそのまま紙に写し出されたかのような、朴訥にして力強い人間性を感じます。
雨ニモ負ケズは、書や生きる上での彼の心のありようの拠り所だったのだろうなと想像します。


「デクノボウ」 1951年 172×405


「デクノボウ」部分拡大


一字書から多字書へ戻って行ったころから、鉛筆で書きなぐったかのような作品が見られるようになります。宮沢賢治の童話などが多いようです。
なんだろう、このヘタウマ・・・と思っていたら、展示室出口で放映している映像を見て驚きました。
まるで早口言葉のように、書く文章を呟き、それとほぼ同じスピードで書きつけていくのです。
言葉が身体からこぼれだし溢れだす時の力強さをそのまま紙に吸い取らせたような作品です。

知的障害のある虔十が、人から馬鹿にされながらも造り護った林の重要性を後に人々が気付く「虔十公園林」や、容姿が醜いために仲間達からうとまれ居場所をなくしたよだかが、命をかけて夜空高く舞い上がり、燦然と輝く星となった「よだかの星」などのストーリーに、井上は、書壇における自分を重ね合わせていたのでしょうか。


「よだかの星」 1984年 31.2×41


「虔十公園林」 1984年 39.5×64.5


映像を見ていて気付いたのですが、井上有一のこと、私知っていました。
ほぼ全裸で箒程もある大筆で叫びながら書を書く映像は有名ですが、展示室最後の映像で顔を見たとき突然思い出しました。展示室のものや、下記の動画では着衣ですが、見たことある方いらっしゃるのではないのでしょうか。




私自身は書の嗜みもありませんし、書の展示はあまり見る機会もないのですが、言葉の、文字の持つ力強さに接し、ハッとさせられる展覧会でした。

井上有一はこんな言葉も残しています。
「捨て切れ、平凡。拙をも捨てよ」

非凡なこと、斬新なこと、人と違うことをしようとだけしている時、人は「自分」から脱却できていないのではないでしょうか。自分を捨てて捨てて最後に残ったものこそが本当の個性と言えるのでは。
そんなことを考えた展示でした。


《展覧会情報》
会期:2015年4月4日(土)〜 7月26日(日)
休館日:毎週月曜日(ただし5/4、7/20は開館)、5/7(木)、7/21(火)
開館時間:11:00〜18:00  ※入館は17:30までになります
観覧料:一般1,000円、大学生800円、小・中・高生500円
※未就学児は無料
※障害者手帳をご提示の方、およびその介護者1名は無料となります。
主催:公益財団法人 菊池美術財団、日本経済新聞社
協力:ウナック トウキョウ


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第4回ART&SWEET スイーツアー代官山・恵比寿編(後編)  2015年3月28日

  • 2015.04.06 Monday
  • 14:52
先日のポスト、「第4回ART&SWEET スイーツアー代官山・恵比寿編(前編)  2015年3月28日」からの続きです。


個性的なスイーツ堪能の後は、Nadiff Apartへ。
まずは、NADiff Gallery「頭上ビックバン! 帽子おじさん宮間英次郎 80歳記念大展覧会」を。横浜在住の人なら一度は見たことあるであろう、帽子おじさんこと、宮間英次郎の展覧会です。最近、アウトサイダーアーティストとして注目されているのです。



アウトサイダーアートについては思うところあるので、展覧会の感想はまた別途記事にあげるかもしれません。
帽子おじさんの年譜には色々びっくりです。帽子アートを作るようになる前と後で全然人生違うというか、少なくともご本人の内面はがらりと変わったのではないかと想像させます。
私は、アールブリュット、アウトサイダーアート、エイブルアートって、存在意義はあれど、展覧会開催して多くの人の目に触れさせることに、観覧者にとっての意味はあるのかなあと少し思いなおしてみるきっかけになりそうな展示でした。
どんな人生送っていても、どこかで転機が訪れるのかなあと勇気が出た気がします。


帽子をかぶってみたり、記念撮影もできます。






そのまま、上階のMEM澤田知子展「FACIAL SIGNATURE」へ。
ギャラリストさんと話し込んだり。私はここのギャラリーは割とさっと見ることが多く、制作秘話などが聞けることはこれまでなかったので楽しいです。そのギャラリーおなじみの人に案内してもらうのにはこういった楽しみがありますね。

澤田知子さんご自身のセルフポートレートが壁一面に展示されているのですが、よく見るとメイクや髪形で一つずつ少しづつ違うのです。人間は、相手の何を、どこを見て個人を判断しているのかについて考えさせられる展示です。
アイデンティティとは何か、「私」というものはいくつもの切り口があって、どんな風に見える私も、どんな風に装ったり化粧してイメージ変わっていても、私は私、なのですよね。






さらに階段を上って、トラウマリスの、鉄秀「肉躍る画」へ。

初日、3/25(日)にライブペインティングで制作した、蛍光塗料を使った作品の展示です。


ちょうど鉄舟さんがいらして、ライブペインティング時の映像を見せてもらいながら、説明して頂きました。
絵筆を使わないで手に絵の具を浸して身体で描き、音楽ともコラボしたそれは、ライブペインティングの域を超えて、もうパフォーマンスアートです。

最近、ライブペインティングはとても増えてきていますが、公開制作との線引きが難しいような、それをライブでやることに意味があるのかなという企画も多い中で、これは面白いですね。
↓の画像を見ると、着ぐるみの頭を逆に付けているので、自分の描く手元を全く見ていないわけです。

Live Paint ウサギ(rabbit )&せいかつサーカス 「星の絵遊園地」



↓こちらは、過去に、麿赤児の大駱駝艦の舞踏家や音楽家とのコラボレーションで初演された舞台なのですが、もしかして、現代アートの一番活躍する場所って舞台芸術なのかもしれません。

EGGORE meets HiraLion LIVE PAINT performing arts 2013.11.29 vi-code"MICHIRUTO"new ver.



4月25日(土)のクロージングで、上記のYoutube映像の時の舞踏家招いてライヴパフォーマンスがあるので、次は生で見てみたいですね。



Nadiffアパートを後にした我々は、近くのたこ公園へと向かいます。
2015年1月30日(金)-3月1日(日)に、ポーラミュージアムアネックスで開催されていた、山本基展『原点回帰』のイベントの一つ、「海に還るプロジェクト」を実行するのです。

「海に還るプロジェクト」とは、山本基さんが作品に使用した塩を参加者が持ち帰り、それぞれが思い思いの場所、川や海辺で海に帰す試みです。


山本基展『原点回帰』展示風景


2012.3.11 海に還るプロジェクト 山本基 しろきもりへ_現世の杜 常世の杜_


上記の動画のように、素敵な感じにできると美しいのですが、私たちはたこ公園、渋谷川に架かる橋の上から。
ジプロックに詰めた白い粉を、「潮吹き♡」と呟きながら渋谷川にまき散らすだいちゃん。



この塩がもしかしたら、私たちの、誰かの口に入る塩になるのかもしれないし、山本さんの次の作品に生まれ変わるのかもしれない。
ちゃんと東京湾に注ぎますように。


潮吹き遂行後は、近くのひいらぎでたいやきを。
これにて、第4回スイーツアーは終了でございます。









次回、第5回スイーツアーは、5月ごろに六本木周辺でと考えております。
みなさんも、六本木のギャラリーを回りつつ、もっちーさんおすすめの、舌噛みそうなおフランスな名前のお店のケーキや、老舗のたい焼きだの焼きそばだの、ふわふわのスフレを食べたおしませんか?


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第4回ART&SWEET スイーツアー代官山・恵比寿編(前編)  2015年3月28日

  • 2015.04.02 Thursday
  • 17:55
美術館やギャラリー巡りをしていると、なんとなくお友達ができるものでして。
なかには、個性的な方々も大勢います。
お友達のうち2人とつるんで時々行っているのが、ギャラリーを廻りつつ、都内中の美味しいスイーツを食べあるく、「スイーツアー」です。

年に数百ものギャラリー展示を回り、数え切れないほどの作家やギャラリストとつながっているのに、ひとつも作品を買わない謎のコレクター、だいちゃんがお勧め展示を案内してくれ、話したことのないギャラリストや作家とつないでくれます。

独自の審美眼で「これは!!」と膝打ってしまうような作品をコレクションしていたり、Twitterでは力士画像の投稿で有名だったりするのですが、アート界きってのスイーツ好き、「下目黒のスイーツドラゴン」との異名を持つ、もっちーさんの案内で、ギャラリー近くのスイーツ店をめぐります。
いえ、どちらかと言うと、もっちーさんお勧めのスイーツ店の近くにあるギャラリーへ行っている感じ。ギャラリーよりスイーツに主眼を置いたギャラリーツアーです。


初回「四谷三丁目→表参道」、第2回「浅草→銀座」、第3回「銀座→湯島」編に続き、今回は代官山から恵比寿エリアへ。

行ったギャラリー:アートフロントギャラリー、POST、LIBRAIRIE6 / シス書店、NADiff Gallery、TRAUMARIS
行ったスイーツ点:イル・プルー・シュル・ラ・セーヌ、リュ・ファヴァー、ひいらぎ



スイーツアーは毎回、ランチから始まります。今回は、我々3人に、若手女性画家、若手ギャラリースタッフ女性さんを加えた5人。
今日のランチは、アートフロントギャラリーと同じヒルサイドテラスA棟にあるビストロ、ル・コントワール・オクシタンです。



こちらは、ランチ1000円でビストロの味が楽しめ、代官山の中ではお得感ありますね。
鶏の煮込み、キッシュ、ホタテのドリア、シーフードカレーをオーダーしました。








食後は、前週開催されていたアートフェア東京や、この週までの3331アートフェアの感想から、アートシーンをもっと盛り上げるにはやっぱり相撲だよね!!などのアイディア!?が飛び交います。
コーヒーを頂きたいところですが、スイーツタイムまで我慢して、アートフロントギャラリーへ。



3/29(日)まで、浅見 貴子 個展 「光合成」が開催されていました。
和紙に、おもに墨を用いて描いた木々の絵です。ところどころに、顔料で薄い水色やグリーンが入っているものもあります。墨のにじみ具合が独特ですが、これは、紙の裏側から彩色しているとのこと。
「なるほど、書道の時、半紙の裏表を間違えるとこういう風に滲むよね」なんて話しながら鑑賞。



ギャラリストさんが、「浅見はかつてはカラーの絵が多かったのですけれど・・・」と仰るので、すかさず「見てみたいですね」などと口をはさむと、施錠中の別室にある作品へご案内頂きました。こういうのは、一人の時でも結構ありますが、気が引けてしまうので、複数で鑑賞していると心強いですね。


ギャラリーを出た後は、代官山蔦屋書店の少し先にある、パティスリー イル・プルー・シュル・ラ・セーヌへ。



こちらは、パティスリーだけではなく、フランス菓子・料理教室や出版、製菓材料の販売などを通じて食の総合プロデュースをされてるそうです。
各自気になるケーキをオーダーし、オープンテラス席へ。



伝統的な、逆に今となっては珍しい正統派なフランス洋菓子です。濃厚!





初夏のような日差しの中では、アート軍団の思考回路がだんだんおかしな方向に行きそうなので、次のギャラリーを目指して一路、恵比寿へ。途中で珍しい車を激写したり。
普段、一人で黙々と一日数か所のギャラリーを回っている我々、道づれとおしゃべりしながらあちこちのショーウインドーを覗き込むのも普段とは違って楽しいですね。

まずは、恵比寿のPOSTへ。
美術書、画集、写真集を扱う書店なのですが、奥に展示スペースがあるのです。





奥の展示スペースでは、古賀充 「Atelier」を拝見。
ペンキのハケ、ハンマー、定規などをモチーフにした彫刻作品です。作業道具に見えますが、角材から掘り出して制作されています。



古賀さんの作品は、ウィットとユーモアとインテリジェンスの比率が気持ちいいですね。
訪れたときちょうど我々だけでしたので、プロジェクターで影絵を勝手にミックスさせたりして、オルタナティブな感じに遊びました。


続いて、大好きな、LIBRAIRIE6/シス書店へ。移転後初めて伺います。






今回は、移転リニューアルオープン直後ということで、「LIBRAIRIE6 Relocation Exhibition」を4月12日(日)まで開催しています。金子國義、菅野まり子、四谷シモン、宇野亞喜良、といったこれまでのLIBRAIRIE6の展覧会を飾ってきた作家のグループ展です。めぼしいものはほとんど売約済みですね。さすが。

こちらのギャラリーでは、ダダやシュルレアリスムの書籍や小物を取り扱っていて、いつも一人で来ても長々眺めたり、衝動買いしてしまうのですが、みんなと来てどんな本が好きとかどの小物が気になるとか惹かれるなどといった話をするのも楽しいですね。


LIBRAIRIE6/シス書店を後にし、線路沿いをガーデンスクエア方面へ。いつもと違う道を歩くので、知らなかったお店やカフェなどが目につきます。ガーデンスクエアへは行かず、加計塚小学校方面へ。よく整備されているので、散歩コースとしても最適。

日仏会館向かいにあるカフェ、リュ・ファヴァーへ。1階がレジとキッチン、ケーキなどのショーウインドウ、2,3階が客席です。内装がアーティスティックでエキゾチックです。





ここで、スイーツアー初の、ツアー中にアルコール所望するという展開に。イル・プルー・シュル・ラ・セーヌのテラス席暑かったですし、ピーカンの中歩いてきましたからね。
ビールやスパークリング、カクテルなどと共にケーキをオーダー。





ひとことで言うと、エッジのたった味。正直言うと、このアーティスティックな内装にあまり期待していなかったのですが、正統派の技術に、個性的な挑戦をしかけてきているパティシエという感じです。

例えば、エクレアには、桜の花を散らし、ピンク色のクリームをあしらった可愛らしい外観を裏切る、ガツンとくる洋酒風味。かと思うと、大胆にも丸ごと一枚挿みこまれた桜の葉の塩漬けが、甘さとアルコール風味に浸っているところをいきなり現実に引き戻してくれるような。

オレンジ風味のババなぞ、クラクラ来るほどのコアントローが、一緒に頼んだミモザがアルコールであることを忘れさせてくれそうなほどです。

ここはスイーツだけではなく、深夜までビストロぽいお料理が頂けるようです。いわゆる「カフェ飯」ではない、い意味で裏切ってくれるお食事ができそうです。今度、来よう。





長くなってきたので、後編はまた後日。


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